伯爵令妹の恋は憂鬱

「マルティナ……? どうして泣いてるんだ?」


慌てて駆け寄ってきたトマスが、泣きじゃくるマルティナを抱きしめた。
そのガウンも冷たい。トマスの全身が冷たくなっていた。


「冷たい……」

「あ、ごめん。今外にいたから。窓から君が泣いているのが見えてびっくりした」

「外?」

「あ、んー。ちょっと散歩していたんだ。それよりどうした?」

「ゆ、夢を見ました」


マルティナはトマスのガウンをしっかりつかむと、「トマスに嫌われる夢でした」としゃくりあげながら続ける。


「……なんでそんな夢」


呆れたように、彼女を抱き寄せ、髪や肩をやさしく撫でる。


「わ、私、何にも出来ないから。トマスが呆れちゃって……、えっ、それで」

「なにも出来ないなんて思ってないよ」


トマスは優しくなだめてくれたが、マルティナはそれでも不安が消せず、自分から彼の首に手をまわした。


「お願い。嫌わないでください」


するとトマスが手首をひょいと掴んだ。鼻のあたりに近づけクンクンと匂いを嗅ぐ。


「バターの香りがする」

「え? ちゃんと洗いましたよ」

「うん。でも結構匂いって染みつくしね」


そのまま、トマスはマルティナの手首を舌でぺろりと舐めた。
驚きすぎて、マルティナの涙が一瞬引っ込む。

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