伯爵令妹の恋は憂鬱


「……料理も掃除もしなくていいから。一日中俺のことを考えていてほしい。夜通し君を抱いていたい。体の隅から隅まで、俺の匂いを付けたい。……俺だけのものにしたくて、たまに気が狂いそうになるよ。……せっかく、マルティナが頑張ってくれているのに」

「……トマス」

「俺は君が思っているほど寛大じゃないし、優しくもない。泣かせたくないから我慢しているだけで、本当は」

“今も君をめちゃくちゃにしたくてたまらないんだ”

恥じ入るような小さな声を、マルティナの耳はしっかり拾った。
そして、顔が熱くなるのを止められなかった。
トマスが抱えている感情が、マルティナが思っているよりずっとずっと激しい独占欲に満ちていて。


「わ、私はトマスの妻です。もうあなたのものだし。いつだって……」

「分かってる。俺が求めれば君は応じるよな。そうしてあの日も、倒れたんだ。だから俺はもう、無理をさせないようにって誓って……」


思いあたるのは、新婚旅行の数日だ。
何度囁かれたかわからないほど愛の言葉を浴びせられ、体も心もどろどろにとろけた。
朝と昼と夜の境目が分からなくなるような数日。気が付けば起き上がれなくなるほど疲弊していた。

あの時も、心配そうにしながらトマスがスープを飲ませてくれて。
それが嬉しくてマルティナの中ではいい記憶としてしまわれている。

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