Perverse second
その場から動かない三崎に、俺はただ戸惑った。



複雑なその表情が表すものがなんなのか分からず、どう声をかけるべきなのかも分からない。



「あの…」



三崎は突然、俺が手渡したビニール袋をガサガサと物色しはじめた。



「はいこれ。好きでしょ?」



そう言って目の前に差し出されたのはジーマの瓶。



そういえば以前一緒に帰った時に、俺が好きでよく飲むと言ったような気がする。



「よく覚えてたな」



何気ない会話の一部分にも関わらず、三崎の記憶に残っているとは。



「忘れないよ。柴垣くんの好きなものは…」



さっきからいったい三崎はどうしてしまったのだろう。



自分のいいように解釈してしまいそうになる脳内を、俺は必死で押さえ込んだ。



これは、あれだ。



この前、得意先に行った時に、三崎の手土産のセレクトがいいとやけに褒めていた部長と同じ立ち位置なだけだ。



「三崎って人の好みの差し入れするの上手だって得意先でも評判だぞ」



自分にも言い聞かせるかのように、俺は笑って三崎に伝えた。



「柴垣くんは得意先でもなんでもないでしょう?」



三崎のその言葉に、俺は笑うことすらできなくなった。



だからお前は、さっきからなんなんだよ。



「そりゃそうだな。俺はただの同期だし」



「ちがっ…」



「いいよ、違わねぇし」



そう、つまりはそういう事なのだ。



それが俺達の距離感だ。
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