Perverse second
電車が動く度に人に背中を押されて、手のひらから上腕を付くようになって。



とうとう俺たちの距離は、あのホテルに壁に三崎を追いやった時と同じ距離になってしまった。



あの時のことは今でも鮮明に覚えている。



俺だけに見せたという、三崎の表情。



初めての感覚に悶えた、三崎の姿。



それはまるで甘美な夢のようで、溺れてしまえば後は沈むだけだった。



そっと三崎を見下ろすと、眉を寄せて何かを必死に抑えているような表情をしていた。



三崎も思い出してしまっているのだろうか。



リセットしたくなるほどの俺との情事を思い出して、嫌悪と戦っているのかもしれない。



視線を合わせて向かい合えば、あの時みたいにキスできる距離に鼓動を躍らせているのは俺だけで。



それが何だかとても虚しく思えた。



俺は三崎の後ろの車窓から、過ぎ行く町並みを眺めて、三崎から意識を遠ざけようと無駄な努力をし始めた。



微かに香フレグランスは三崎のもので、まるで俺の努力をあざ笑うかのように、俺の体に纏わりついた。



なんの拷問だよ。



苦痛の溜め息が出そうになるのを我慢して。



三崎と視線を合わせないようにひたすら景色を眺めることに集中した。
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