極甘同居~クールな御曹司に独占されました~
「夜になると、水田からカエルの大合唱が聞こえてきます。それを聞きながら眠るのが好きでした。東京に来た頃は、あの声が聞けないのが寂しかったです」


「いいところなんだな」


「はい。でも、柄にもなく夢を抱いて飛び出してきましたけど」


「どんな夢?」


「立派な技術者になりたかったんです」


今、自分がそんなふうになれているのか、まだ途上の私ははにかんで少し声が小さくなった。
だって、彼は優秀な人をたくさん知っているから。
あの人──長谷川さんのような。


音を立てて湧き上がる湯の中で、彼が私の手を取った。


「一人で東京に出てきて、大変だっただろ」


「はい」


「……小さい手だな」


彼の手があの指輪を撫でたあと、私の手を持ち上げて形を確かめるように撫でる。


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