結婚しても恋をする
着替えをキャリーバッグに詰め直し、ジッパーを閉めた。
「マンションのローン計画、どうなの?」
「うん、この1週間家事もせずだったから、よく考えられた。頭金の金額も大体」
荷物の側から立ち上がり、リビングへ戻ると母の淹れてくれた食後のお茶から湯気が昇っていた。
椅子に腰掛けると、向かいでマンションの資料をぺらぺらと捲っている。
「会社辞めちゃって大丈夫なのかしら……」
「ローンが通ったなら大丈夫じゃないの?」
既に新築マンションの購入を決めてしまったのだ。夫婦関係が上手く行かないなどと弱音を吐いている場合ではない。
しかしながら、こうして彼から離れ過ごしてみると、実家でも職場でも取り立ててわたしの逆鱗に触れるような出来事は起こらず不思議に感じていた。
この1週間怒っていないことで、随分と心の調子を取り戻したように思える。
明日、家へ帰ろうと決めた。
和室の電気を消して、布団に横たわり息をつく。
静かな空間に響く秒針の音を耳で拾っていると、不意に郷ちゃんの穏やかな笑顔が瞼の裏に浮かび、ゆっくりと目を開いた。
瞬間、熱く込み上げたものが、目頭に溢れた。
あなたのことを、ただ真っ直ぐに愛せなくて、ごめん。
「……っ」
きつく閉じた目元から流れ続ける涙が枕を濡らし、漏れそうな嗚咽を堪えた。
あんなに優しいあなたを、大好きなあなたを
それでもわたしは、ただ受け入れることが、どうしても難しかった。