結婚しても恋をする
午前中に“片田《かただ》”の表札の掛かった玄関を潜った。
わたしはもう“藤倉”ではなく、“片田灯梨”なのだ。
改めて思い巡らせながら踏み入った家の中は、変わり果てていた。
「……何これ」
山のように積まれた洗濯物、水の溜まったシンクに洗い物、抜け殻のように放置された服でとっ散らかった部屋。更には洗面台の電気が点いたままになっていた。
幾らかは片付けた痕跡があるものの、予想を遥か上回る汚さに、思わず独りごちてダイニングの入口に立ち尽くし呆然とする。
我に返ると、すぐさまテーブルの上にひしめくごみを掻き集めながら、口は文句を垂れている。
「くそっ、何でその時捨てないわけ!」
ごみ箱に投げ入れようとした干からびたカップ麺の容器が、淵に当たって跳ね返った。
「……~~~~」
もしかしてわたし、もう郷ちゃんのこと嫌いなんじゃないか?
疑念を纏わり付かせたまま、家の片付けも終えられずに自転車に跨った。
祝日の今日、親友の清花《さやか》とランチの約束をしていた。
お互いの新居が割合近く、わたしの体調を気遣ってくれた彼女の提案で、中間程の地点の野菜カフェで落ち合う。
「いつから上手く行かなくなったの?」
「……旅行の時から、かな……」
野菜たっぷりの玄米丼に箸を付けながら、2ヶ月前の事件を思い起こした。