結婚しても恋をする
知っている。長所と短所は表裏一体。コインの表と裏。
お互いにネガティブな性格で、一緒に居て楽だから結婚した。
『もうわたし無理だわ……仕事辞めるわ……やる気出ないからおかず買ってきた……すいません』
『全然いーよー』
『……仕事辞めて良いの』
『灯梨の好きにしなー』
幾度も繰り返したそんなやりとりを、脳裏に描いた。
弱音を吐いても、ぐうたらしてても、元気付けたり、やる気を起こさせようとしない。
ありのままのわたしでも、何ら改善を要求して来ない。
だから一緒に居られるのだ。
なのにわたしは、日々に感謝する気持ちを忘れて、あなたに求めてばかりな気がする。
ぐつぐつと泡立つ鍋を掻き混ぜていると、玄関の鍵を回す音が耳に届いた。
慌てて駆けて行き、扉を開けた人を出迎えた。
「おかえり、郷ちゃん」
「……ただいま……」
僅かに驚いたように目を見開いたその人の身体に、今度はわたしが腕を回す。
「ごめんなさい……」
胸に埋めた顔から涙が滲んで、コートを濡らす。
暫し沈黙が流れた後、頭上に降りてきた掌の感触。
「おかえり、灯梨」