結婚しても恋をする

「ほんで?」

課長が適当に数品注文し店員が去ると、“おっさん”発言に異議を唱えるタイミングも失ったままで、続きを促された。
最初に行き当たった原因を、ひとまず口に出した。

「……件数を……ズルしている人が、居るようでして……」
「……」

暫し腕を組み宙を見つめてから、溜息が吐き出される。

「……だからそれは。一番件数上げてる奴は疑問やって、言うたやんか」

歪めた顔から思いもしなかった回答が飛び出し、睫毛を瞬いてしまう。
言われた内容に反応して、先日の面談での一幕が脳内に描かれた。

……あれ、水川さんのことだったのか……。
放心状態で宮内課長を見つめ返すと、唇が弧を描く。

「納得したか?」
「……」

穏やかな微笑みに惑わされたかのように、ゆっくりと首を縦に振った。
本人に物申してやりたい程だったが、そのたった一言で、課長が解ってくれているならもう良いかとすら思えた。
事実、宮内課長が知っているということは、即ち上の人は皆理解しているのだろう。
侮っていては足元を掬われる、抜け駆けは失敗に終わっているのだ。

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