結婚しても恋をする

宮内課長が料理に箸を付け始めたので、わたしも頂こうと小皿を眺めて目を見張る。
特に伺いを立てることもなく頼まれた中に、緑色の野菜の漬物が含まれていた。

これは……もしかして、もしかしなくても、セロリ……。

我が家では絶対に登場しない食材である。
郷ちゃんの野菜嫌いは一緒に住んで以来徐々に克服させ、食べさせるからにはわたしも食べなければと嫌いな物はほぼ治したものの、セロリだけは受け付けなかった。

これだけは食べられない……!

蛸の唐揚げにばかり箸を運んでいるのがばれたらしく、突っ込みが入ってしまう。

「何、セロリ嫌いなん? 普段食べられへんから、よう頼むんやけど」
「……」

予想外の台詞の意味を推察して固まってしまうと、何処かバツが悪そうに目線を外した。

「あー……嫁さんが嫌いやから、子どもも食べられへんねや。うちでは出ーへん」
「…………宮内課長のお子さんって、おいくつなんですか……?」

痛み始めた胸元を感じながらも、口元だけは笑顔を取り繕った。

「高校に上がった。アホみたいに食うのにセロリは見向きもせーへん」
「……男の子ですか」

「そうや」

淡々と答える横顔を目の端に捉えたが、こちらは振り向かなかった。

解っていたはずだ、課長が妻子持ちであることは。
これ以上踏み込んでは奥さんとお子さんに申し訳が立たないと、今頃になって潜んでいたらしい至極真っ当な常識が顔を出す。

しかし会話を広げられなかったのは罪の意識からではなく、自分が思い知りたくなかったのだ。
宮内課長の“夫”の顔、“父親”の顔を目の当たりにして、打ちのめされるのが怖かった。

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