結婚しても恋をする
御馳走になってしまったが、それも知っていたことで、こちらからは行けないと考えた理由のひとつだった。
立場上、食事に行けば契約社員にお代を出させるわけはないだろう。
「ご馳走様でした」
雨上がりの夜空の下、濡れた道路に踵の音を響かせていると、段差に足を取られ滑ってしまった。
「きゃっ!」
「おっと!」
咄嗟に二の腕を掴まれて、顔が逆上せあがる。
「す、すみません……」
「……酔ったんか? 気付けや」
見上げるとすぐ前に呆れたような、しかし恥じらいが入り混じったらしい顔があって、胸が爆音を立て始めた。
心なしか課長も僅かに高揚して見えるのは、お互いお酒が入っているせいだろうか?
目を離せないままに、見つめ合う格好となる。
逡巡する様子を伺わせたかと思えば、言い放たれた台詞に度肝を抜かれた。
「……セクハラで訴えんといてな」
「うっ、訴えませんっ!」
「ほんまやな?」
「……ほんまですっ!」