結婚しても恋をする

何かを察知しての行動だったのかは、わからない。
直感の優れた人だから、見くびっていては痛い目に遭うかも知れないと、肝を冷やすきっかけにはなった。

しかし、事が終わると普段通りわたしに絡まり付き眠りに入ろうとしており、単にそういう気分だったとか、疲れていて本能的な行動だったとかの可能性も考慮した。

「…………大好きなの……?」

小さく問い掛けると、意識があるのかないのか疑問ながら、背後の人が呻いて声を押し出す。

「……大好き……」

こんな時でも何の抵抗もなく口に出来てしまう、その言葉──

「……」

壁を見つめながら、ある事実に思い至ると、足先の血の気が引いてしまいそうな感覚に陥った。

郷ちゃんの“大好き”の相手は、家族しか居ない。
血の繋がらない相手では、わたしだけ。
彼の世界は、わたしだけ──

不意に思い知らされた現実は、彼の体温と共に背中に重く伸し掛った。

だから敢えて“わたしだけじゃない人”と付き合いたい、分散させたい気持ちになっているのかもしれない。
帰るところがある安心感から、出来るのかも知れないけれど──

チクリと胸を刺す痛みを紛らわせたくて、布団を再び引き寄せた。

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