結婚しても恋をする
そこまで気を配っていたのに、衝動に負けてしまうのはどうしてだろう。
無事に年内最後の出勤日を迎えた。
部署を跨いでフロアの中心に社員が集まり、部門長より暮れの挨拶があった。
考えるよりも前に目が追い掛けたその人は、部門長が謝意を述べている最中だというのに、明後日の方を向いていて呆気に取られた。
そんな飾らない茶目っ気が、宮内課長の人望の所以なのだろう。
人柄の見える姿に心動かされてしまったのか、最終日だから挨拶くらいしても不自然ではないと、何故かで期待を抱いたらしい。
午後の遅い時間、御手洗から出て角を曲がると、カードリーダーに社員証を翳す宮内課長の姿を捉えた。
その距離僅か2メートル、声を掛けたいと突き動かされた瞬間、ドアの向こうへ入室してしまった。
だけど課長は何故か振り返って、ガラスの扉の向こう、はっきり目が合ったけれど、そのまま去って行った。
わたしが部屋へ入った時にはもう、距離が出来ていた。
席へ着いても、どういうわけか酷くショックを受けていた。
押し込めていた心の声が、言葉になって脳内に響く。
宮内課長、話がしたいです。
もっと、話したかったです。知りたかったです。
心を、通わせてみたかったです。
顔を俯けたまま、此処には壁が……と在り来たりな感想を浮かべたが、思い直した。
壁ではなく……扉があるのだ。
これがわたし達の間柄だったのかもしれない。
扉があっても、開かない。