結婚しても恋をする
目尻に浮かんだ涙を悟られたことに慌てて、手の甲で拭った。
「ちょっ……何でなん!?」
「えっ」
わたしの手首を取った目の前の顔が、冷静さを欠いていることだけは解った。
泣いてしまったことが思いの外、宮内課長の心に留まったらしい。
右腕を掴んだままで、すぐ側のドアが開いている会議室へ踏み入った。
「ごめんな、ちょっと間貸してっ!」
「あら宮内課長……いかがなさいました?」
右手はすぐに離されたが、誤魔化すように掌を前へ突き出し広げている。
「頼むっ! 何も聞かんと! 10分……いや、5分でえぇ!」
会議室は職場巡視に使用されているようで、保健師がやや困った笑顔を浮かべた。
彼女が気を利かせて出て行くと、閉ざされた部屋にふたりきりとなってしまった。
「…………職権乱用……?」
「なんて言い方すんねん、お前……」
心ならずも率直な感想を漏らすと、『お前』と呼ばれて目を瞬く。
振り返った人はまたしても、しくじったような表情で明後日を向いた。
どうしよう、何この状況??
軽くパニックに陥りまごついていると、顔を背けたまま盛大な溜息が吐き出される声が聞こえた。
呆れられたとショックを受けたと同時に、肩に大きな掌の感触を確認した。