結婚しても恋をする
一体どうして、宮内課長と会議室で対峙しているのか。
「別に、引き止める気とかないんやで? ただ、理由を聞いておこうと思って」
連行されて、初めて狭い空間にふたりきりとなった現状を思い、気恥ずかしく唇を結んだ。
─あぁ、やっぱり格好良いな。
年齢の割に整った顔立ちとスタイルを保っている前の人を眺め、うわの空で馬鹿な感想を浮かべてから、質問の内容について反芻した。
この人は、業務統括課の課長という部門全体を取り纏める役割を担っている立場から、聞き取りに来ただけだと言い聞かせた。
「……色々……体調が良くないこととかもあるんですけど……一番の理由は、派遣の方より時給が低いことが、解ってしまったからですかね……」
ただでさえ頭を悩ませる派遣社員の中の、若くて無邪気な女の子が悪気なく漏らしたのだ。
時給の話は、雇用形態が違えど御法度だと言うのに。
交通費もボーナスも出ない彼女達よりは給与としては上であるが、わたしのモチベーションを腐らせるには充分の衝撃であった。
「……それを言われると、辛いところがあるんやけどなー……。うちの系列の派遣会社が事業を終了して、一般の派遣会社に移った子やろう。残念ながら給与については俺の力では何とも出来へんねんけど……昇級して貰うくらいしか」
耳慣れない関西弁を聞きながら、向かいの机上で組まれた手に光る結婚指輪を認めると、腿の上で握った自分の左手の指輪を撫でた。
ミル打ちの感触が好きで、何処か安心出来る。