結婚しても恋をする

「まぁ、正直藤倉さんだけちゃうねん、昇級を渋ってんのは。そない気に入らへん?」

薄く笑みを浮かべた課長を見つめながら、どうせもう辞めるのだから何を言ったって関係ないだろうと開き直った。

「いや、昇級しても給料上がらないですよね。ボーナスは増えるのかも知れないですけど、皆首を切られない為にリーダーになって、プレゼンやら試験やら求められる仕事ばかりが増えて、無期雇用になったわたしにはあまり利点がありません。
社員の方がこんなに少なくなっているのに、もっと待遇を良くしていかないと皆辞めてしまうと思います。将来に希望が持てません」

ひと思いに並べ連ねると、一瞬吹き出したかのように表情が崩された。
切れ長の目尻に皺が刻まれて、思いもよらず胸が音を立ててしまう。

「言うなぁ。社員が少ないことについては、今動いてる所なんです。いずれ基盤が同じ仕事をしている部署をひとつに纏めるつもりで……秋に隣の部署引っ越して来たやろ?
色々難しくて直ぐには出来へんけど、とりあえず隣に配置することで、一緒やで~って形から入ってるとこ。このままでは、3年持たんと思うわ。無理や」

手振りを交えながら繰り出される軽い口調と、一介の契約社員に内情をぶっちゃけているこの課長が面白いなと、口元が緩んでしまった。

「まぁ一応そういうのはあります。此処入って何年やっけ? 8年?」
「そんなに居ませんよ……6年です」

「勿体ないなぁ。一番件数さばいてる奴は内容はちょっと疑問やし、えらい頑張ってるなって」
「……ありがとうございます」

その言葉に瞠目し、僅かに熱くなった顔を感じ取った。
手の掛かる依頼をさばいているとわかってくれている。上の人は、件数しか見ていないのかと思っていた。


「すみません。結構勝手言いましたね」

会議室を出る際に一応謝罪を述べると、微笑んで頷いてくれた。

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