結婚しても恋をする
キスは不貞行為には当たらない。
だけど──……浮気は、浮気だ。
ダイニングチェアの上で魂を抜かれたように時間は過ぎ去り、郷ちゃんの帰宅時刻が差し迫っていた。
「ただいまー……」
「おかえり……!」
「?」
重い腰を上げどうにか夕食作りに取り掛かっていたが、声を掛けられただけでびくりと肩を揺らすので首を傾げられてしまった。
こんなことではバレてしまうのではと内心怯えつつも、証拠はないはずだと思い直す。
プライベートな連絡先は交換しておらず、やり取りは愚か登録すらない。
保健師は守秘義務があるから、簡単に口を滑らせたりはしないだろう……おそらく。
それに会議室にふたりで居ただけだ。これだって証拠にはならない。
床に着く準備を整えながらそこまで考えて、視線を落とした。
──あわよくば隠れて課長と心を通わせたいと、本心では目論んだ癖に。
強く抗えなかった癖に。
「ひっどい嫁……」
ぽつりと零した声は、夜の空気に吸い込まれて行くようだ。
「……何で?」
寝室へ入ったと思い込んでいた人の声が背後から響き、心音が急速にボリュームを上げた。