心をすくう二番目の君

言い捨てて廊下へ飛び出した。
溢れ出る涙を拭いもせず、御手洗へ飛び込んだ。

幸い人の姿はなく、切らした息を整え鏡を覗く。
思った程には跡は目立たず、気が緩んで肩の力が抜けた。

──わかっている。こんな関係に甘んじていたわたしにも問題がある。
これは罪の代償なんだろう。

射場係長が結婚を決めたのなら、婚約者の為にももっと早くこうするべきだった。

その場にしゃがみ込むと熱い雫が頬を伝って落ちる。
口元を覆った掌は、震えていた。
目を見開いたまま、荒い息が吐き出される。

結局わたしを慮ってくれたあの日の言葉も、嘘だったのか。
わたし達の関係は、一体何だったのか。
今となっては、もうわからない。

この涙が意味する感情も、わからない。
それでもわたしにとっては、大切なひと時でもあった。
創一さんとの日々が全て、辛かったわけじゃない。
楽しかった共に過ごした時間の残像が、まざまざと頭に浮かんでは消えた。

もうわたしには必要ない。
忘れなければいけない。

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