心をすくう二番目の君
店を出て、路地裏を歩く。
静けさを呈している高架下へ潜ると、背後からエンジン音が近付いて来た。
内側を歩いていたわたしの左肩を、大きな手が引き寄せる。
脇を車が地響きを残して過ぎ去った。
そのまま抱き締められてしまった。
「……春志……人に見られるかも……」
わたしのものだと思っていた大きく響いている心音は、次第に春志のそれと混ざり合った。
「……良いんだ」
何が良いのかはわからなかった。
だけど、この幸せなひと時を出来得る限り長く味わっていたかったから、反論はしなかった。
弾みで春志の胸の前に畳んでいた腕を、背中へと回す。
暫し背筋に感じていた温もりが遠ざかった。
おもむろにその手が肩に掛けられ、そっと身体を引き離すと、真顔で瞳を合わせた。
「…………煙草の匂い……」
消え入るような声で呟いて、わたしの顔を覗き込んだ表情は猜疑心に満ちて見えた。
心臓が軋む音が微かに聞こえたような気がして、目の前が翳る。
「……今日……あの人と、会ったの……?」
口を噤んだまま頷いた。
「匂いが付く程、近付いたんだ?」
「…………」
此処であの人とは終わったと言えば、どうなるだろう。
──それでも、ネミさんと別れなかったら?
生まれた情動を制して、当初の画策を推し進めた。
「……奥さんに、ばれそうだって言われた……」
彼の目を見上げて、嘘を吐いた。