心をすくう二番目の君
真相 -春志編-

病院へ呼び出されたのは初めてのことだった。
雨が降って気温が下がっている。秋が濃くなりつつあった空気は、一層冷え込み身に沁みた。
傘を閉じ、滴る水気を切るとロビーへ進んだ。

力なく肩を落とした寧実の、悲壮感漂う後ろ姿を認めた。
躊躇う心を抑えて、背後から声を掛けた。

「大丈夫か」

振り仰いだ化粧の落ち切った顔は、泣きじゃくった後を思わせる。

「……もう嫌……こんな生活……。家、会社、病院。家、会社、病院。往復してるだけ……」

母親が患ってからと言うもの、父親と交代で入院のサポートをしているが、家事の大半は帰宅の早い彼女が担っていた。
親友のように仲の良かった母の、弱って行く姿が与える精神的ダメージも、想像に難くない。

「……お母さんが……病気しなければ……こんなことにはならなかったのに……」
「……何言ってんだよ……そりゃ病気になんてなりたくなかったに決まってるだろ?」

一級の製図試験が数日後に差し迫っている。正直なところ、一刻も早く帰りたかった。
宥めること十数分、次第に落ち着きを取り戻し始め、漸く胸を撫で下ろす。

「……お母さん……春志に会いたいって言ってた……。顔、出してあげて……」

か細く呟くと、ふらふらと立ち上がる。
その足は御手洗へ向かったようだ。
じきに面会時間は終了してしまう。致し方なく、ひとりで病室へ入った。

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