心をすくう二番目の君
花澄が気掛かりだったが、寧実を宥めておかないと面倒なことになるのは避けようもなさそうだった。
地下鉄の階段を降り切ったところで、腕に絡まったままの寧実の目を見ずに口にした。
「……送ってくよ」
「え……部屋に行っちゃ駄目?」
「明日あるだろ」
「置いてる服着て、直接出勤するから平気」
俺は最早、許容出来る気はしなかった。
部屋へ入れておいて何もしなければ、責められるかも知れない。
左腕に纏わり付いている掌を、引き剥がした。
「……帰ってくれ……」
花澄と心を通わせた時から、既に寧実との今後の可能性は俺の中で消えていた。
しかし今回の一件で、漠然としていた意志が決意に変化を遂げた。
「……え……」
困惑を滲ませた声が、地下コンコースに響く。
恐る恐る、その顔へ視線を滑らせる。
そこには強ばった瞳があった。
自分の目が据わっているだろうことが、想像出来た。
「……お前……俺が此処に来る時間が解ってたんだろ」
「……えっ? ……だって今日、ノー残業デーでしょ?」
言葉を乗せた自分の声が険しい。
眼前の子は、一瞬目が泳いで見えた。
「いつも定時で上がれるわけじゃない。それに、何であの出口を使ってるって解ったんだ?」
「……前に会社のこと話してくれたじゃない? 春志」
──嘘だ。
問い詰めても尚、嘘を吐かれている。
しらを切っているとしか思えなかった。