心をすくう二番目の君
だったら何故、彼女と別れなかったのか。
上滑りした言葉が耳の奥に吸い込まれて行き、眼前に迫った胸板の上で、拳を強く握り締める。
熱を持ち始めた目頭を思い、きつく瞑った。
想定の範囲内で起こった事件のはずだ。
このくらい、何でもないことだと思っていたのに。
どうしてわたしにこんな……仕打ちを、痛みを、与えるのか。この人は。
何故こんな目に遭うのか。
「……っ」
堪え切れず肩を震わせた、わたしの異変を察知した彼が顔を上げた。
「花す……」
迫ったネクタイの紫色のストライプが僅かに滲む。
目尻に涙が浮かんだことだけは解った。
余りに惨めで、歯を食い縛ったまま顔は上げられなかった。
射場係長が怯んだ隙に、突き飛ばした。
「……失礼します」
駆け出し、追い掛けて来られない女子トイレへ逃げ込む。
「──……」
とぼとぼと崩れ落ちそうになりながらも、歩を進める。
片手で顔を抱え唇を震わせた。
頬から顎へ滴り落ちて行くのは、悲しさなのか悔しさなのか、入り混じった感情に混乱していた。