心をすくう二番目の君

「……まぁ……切れてはないよね……」
「はぁ~そうなんだ~~」

周囲の目を気にしてか、後ろめたさからか、身を縮めて小声で絞り出す。
しかし、此処最近の動向を思い描くと、上げていた口角が自然と元に戻った。

「……でも……」

口元へ人差し指を立て、唇を尖らせていた紫夜が、こちらへ向き直る。

「……どうも、別れたいと思ってるみたいなの」

前を見据えたまま、口に出した。
車両がトンネルへ突入し、走行音が轟いている。

「……クズ男が?」

言われて顔を見合わせると、目を瞬いていた。

「……ううん、わたしが」

真顔のまま続けると、感心したように明るい表情に変わった。

「えっ、どういう心境の変化?」
「……婚約者を、見た……」

呟いて、クッキーの包装を破いた。
今度は額に指先を充てがい、難しい顔をしている。

「それは、痛いわぁ~~……」

暫し考えた後でわたしの手元を覗き込み、クッキーを連れ去る。
五分丈の袖口に施されたフリルが、紫夜のシャツと擦れ合った。

「でも、良いチャンスだよね。正直私が何言っても無駄かなって思って、見守ってたけど」
「……」

「痛いけど、忘れちゃ駄目だよ。別れたいんだったら」

力のあるシビアな言葉とは裏腹に、口元は優しく綻んだ。

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