心をすくう二番目の君
攻防
5月にしては冷える日が続いていた。
からっとした晴れもあるが、天候の急転が多くなっている。
その日は風が強く街路樹がしなる程に吹き荒れ、次第に横なぐりとなった雨が降りしきっていた。
「今日はもう帰って下さい」
定時を回った頃、中薗さんが課長と相談していたかと思うと、皆に向け告げられた。
どうやら警報が出されているらしい。
「小椋さん傘持ってる?」
続々と立ち去る足音が響く中、声を掛けられただけで心臓が一度大きく音を立てた。
「折り畳みが……」
「置いてある傘使いな」
中薗さんが傘立ての位置を手振りで示す。
確かに暴風に折り畳み傘では心許ない。ありがたく借りることにした。
「行こう」
促されエレベーターへ乗り込む。
当然のように一緒に帰る流れとなっており、不謹慎だが心で舞い上がった。
しかしもしかしたら課長の指示だとかいう可能性も視野に入れておく。
ふたりきりという訳でもないのに、狭い箱の中で鼓動が身体に響く。
あれ以来、わたし達の間に漂う気配が変わったように感じていた。
街は灰色の空気を纏い、バチバチと音を立てコンクリートに打ち付ける雨粒が沢山の波紋を広げていた。
災害などに遭遇すると、気持ちが浮つき落ち着かない。
信号を待っていると、スマートフォンの振動を察して鞄のポケットから取り出した。
そこはかとなく嫌な予感がする。