心をすくう二番目の君

「そろそろ上がろうか」

声が掛かるのを作業しながら待っていた。
中薗さんは、至って普段通りであるかのような口ぶりだった。
頷いて、デスクに広がった用紙を揃える。
まだ残っている社員も散見されたが、悟られていないことを願いながら後を追い掛けて廊下へ出た。

一緒にビルを出るのはよくあることだけれど、いつもと違うのは約束を交わしていることだ。
ふたりきりのエレベーターの中で、妙に緊張が纏わり付く。
隣の人が壁にもたれながら、俯いて大きく息を吐く。
じっと眺めていると、何か不満げに唇を尖らせた。

「……なんか……平然としてるよね」
「えっ? 平然としてたのは中薗さんでしょ?」

どうもケチを付けたいらしく、拗ねたような態度にどぎまぎしてしまう。
軽い音を立てて、わたし達を乗せた機械が止まった。

「…………まぁ良いや」

ぶつくさ言いながら、すたすたとエントランスへと歩を進めている。
その姿が可愛くて、歩調を合わせることもなくつい観察してしまうと、振り返った。
駆け寄ると、浮かべられた優しい笑顔に胸が高鳴る。

いちいち心惑わされているのは、こちらの方だ。

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