心をすくう二番目の君

乾杯をして、造りの盛り合わせやだし巻き玉子に舌鼓を打ちながら、他愛もない会話を弾ませる。

「そんでもう現場着きそうなのに『あっ、忘れてたー!』って言い出して」
「もうちょっと早く思い出して欲しいですよね。せっかく中薗さんがやる気なのに」

笑って同意を示しながらも、わたしの脳内には日中の告示が思い起こされていた。
契約社員の進退について、係長以下の社員へは何らかの通達があるのだろうか。

揚げ出し豆腐を頬張っている人を横目で見つめた。
この人には以前、いずれやって来る期限について触れたが、具体的な時期は言及しなかったはずだ。
打ち明けてみたかったが、浮き立った空気に水を差したくなく、躊躇った。

2杯目となった桃酒を流し込むと、睫毛を伏せて束の間、思案に耽っていた。
不意に視線を感じ顔を向ける。横の人が頬杖を付き、じっとこちらを見つめていた。
その面立ちは無表情で、うわの空がばれてしまったのかと狼狽えた。

「…………あのさー……ふたりの時は名字で呼ぶの、やめてよ。あと、敬語も」

不貞腐れたような顔を右腕で支えて、頬を赤らめ上目遣いでこちらを窺う。
射抜くような眼差しに捕らえられて、まごついた。

「……え、と……」
「前にさぁ、“春志”って名前で呼んだでしょ。あれ……ちょっとグッと来た……。もう1回、呼んでよ」

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