そしてあなたと風になる
車は、ゆっくりとまひるのマンション駐車場に停車した。

二人は途中、ペットが同伴可能なカフェレストランに寄って夕飯を摂った。


時計は21時半をさしている。


まひるは、千尋の自宅に寄った後に千尋をおろし、自分で車を運転してマンションに帰ると言ったが、

千尋は"心配だから"とそれを断った。


「荷物、運ぶよ。」

「少ないですから」

「はい、ねーこ」

千尋は、子猫が入ったゲージをまひるに渡すと、自分はカメラの入ったケースとパソコン、まひるのバッグを抱え上げた。

このマンションは、まひるの父が所有していたマンションで、今はまひるが相続している。

面倒な相続手続きは、会社の顧問弁護士と晴斗が行ってくれた。


指紋認証でマンション入り口のオートロックを解除すると、エレベーターで最上階の10階に上がる。


10階はワンフロアになっていて、まひるの自宅のみが入っている。


「コーヒーでも、飲んでいかれますか?」


玄関のオートロックを解除しながら、
微笑みを浮かべたまひるが言う。

「いいのか?」

千尋は、荷物を置いたらそのまま帰宅しようと考えていた、

いや、期待していなかったわけではないが、

その気持ちを隠すように

ためらいながら室内に入った。


「広いな」

「以前は父と住んでいましたから」


リビングルームの三人がけのソファに腰かけるように千尋に促すと、まひるは対面にあるアイランドキッチンでコーヒーと紅茶を入れはじめた。

「なんか、洋風の作りだな。」

「イギリス人の母が過ごしやすいようにって、父がデサインしたみたいです。」

出来上がったコーヒーと紅茶をソファの前のデーブルにおくと、まひるは、一人分の隙間をあけて、千尋の横に腰かけた。



「,,,一人で寂しくないのか?」

「寂しいですよ」

千尋は少し間をおいて、

「恋人とか,,,。一緒にいてくれる人はいないのか?」

と聞いた。

「いたら、千尋さんを家に入れたりなんかしませんよ。」

ティーカップに口をつけて、

「ふふふ」

といたずらっぽくまひるが微笑む。

「千尋さんが初めてなんです。一緒にいてほしいって思ったのは,,,」



色素の薄いブラウンの目が、うるうると涙をたたえ、千尋を見つめた。


"愛しい"


こんな感情は、千尋も初めてだった。



千尋は、ゆっくりまひるに近づくと、

まるで子猫を抱き締めるように両腕を回した。


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