外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
夕方に差しかかるこの時間は、人の往来も落ち着く時間帯で、それほどざわついた空気もない。


「とりあえず、課長にも面は割れたし。警備員にも要注意人物ってことで通達された。走って逃げていって、ちょっとした騒動になったから、しばらくは安心していいんじゃないかとは思う」

「そう。ありがとう」


なつみの言葉には無意識にホッとして、胸を撫で下ろした。
ずっと強張っていた表情が、ようやく少し緩むのが、自分でも感じる。
だけどなつみは、「でも」と、私のシャツの袖をツンと引っ張った。


「だからって、これで終わりって保証はないんだから。ちゃんと旦那さんに報告しときなよ」

「っ、え?」


無意識に怯んだ声をあげてしまった私に、なつみは厳しく眉を寄せる。


「心配かけたくないのはわかるけど、同じビルに勤務してるんだから、どこかで耳にする可能性もある。その時、旦那さんはきっと、知らずにいたことの方がショックだと思う」


真剣な目でそう言い含められ、私も唇を引き締めてこくりと一度頷いてみせた。
そうして、なんとなく、頭上高く、天井を見上げる。
この何フロアか上にあるオフィスで、奏介は今も働いているはずだ。


なつみの忠告を胸に刻みつける。
一度大きく深呼吸して気分を落ち着かせると、私たちは再び受付カウンターに戻り、普段通り業務に勤しんだ。
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