外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
物音がやみ、私は恐る恐る目を開けた。
次の瞬間、私の耳に届いたのは、乱暴な第一声と打って変わって、なんとも切なげでか細い、さっき以上に信じがたい一言……。


「いちゃいちゃしてえ……」

「……!?」


自分の執務室で一人きりとは言え、奏介が口走ったとは思えない言葉。
私はギョッとして、無意識に一歩後ずさった。
途端に、パンプスの踵がコツッと音を立ててしまう。


「っ、誰だっ!?」


微かな足音にも奏介は敏感に反応して、鋭い声を発しながら勢いよく振り返った。


声以上に鋭い切れ長の瞳が、ドアの隙間から覗いていた私の上で止まり、驚愕に眦が避けそうなほど見開かれる。


「なっ……七瀬!?」


いつもより一オクターブくらい高い上擦った声で呼ばれた私は、あまりの混乱で頭の中がぐるぐるになりながらも、慌てて一歩足を踏み入れた。
背中で押すようにしてドアを閉め、大きく胸を上下させて深呼吸をしてから、奏介を見つめ返す。


「あ、あの。突然ごめんなさい。奏介に話したいことがあって来たんだけど、そこで会った弁護士さんが、中に通してくれて」

「あ、ああ。そうか」


私がここに入り込んだ言い訳を捲し立てる間に、奏介の方はいくらか落ち着きを取り戻したようだ。
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