外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
声をいつものトーンに戻し、ごほんと取り繕うような咳払いをする。


「別に問題ないから構わない。それで、話とは?」

「え、っと」


いきなりコロッと、いつもの外向けのクールな弁護士を装われてしまっても。
私の鼓膜にはさっきの衝撃的な言葉がしっかり焼きついてしまっていて、まるで耳鳴りのようにガンガンと響き渡っている。


「……誰、と?」


奏介はきっと精一杯誤魔化そうとしている。
わかっていながら、私は上目遣いで探るように問いかけた。


「なにがだ?」


奏介はやっぱり惚けようとしているのか、妙にきびきびと聞き返し、私にくるりと背を向けた。
けれど、書棚の方を向く彼の広い背中には、結構わかりやすく動揺が滲み出ている。
奏介が私の答えにものすごい警戒心を募らせているのも、感じ取れてしまう。


「……奏介、誰といちゃいちゃしたいの?」


それでも、促されるままに遠慮なく質問を畳みかけると、彼の動きがピタリと止まった。
もしかしたら、呼吸すら止めているのかもしれない。
しん……と執務室が静まり返り、壁の時計が時を刻む秒針の音だけが、やけに大きく響き、木霊している。


私はごくりと喉を鳴らして、ゆっくり奏介の背中に近付いていった。
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