外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
「結局、俺が忙しいせいだ。ああそうだ、もちろんわかってる。だが、しかしっ!」


奏介は身体の奥底から込み上げる衝動に任せるかのように、再び書棚にバンと拳を打ちつけた。
肩で大きく息をして、自分の中で荒れ狂う感情を必死に鎮め――。


「……俺は、君と、本当はもっと、いちゃいちゃしたい」


言うのも恥、というように顔を背けてしまったから、奏介の絞り出すようなか細い声は聞き取り辛い。
だけど私は最後までしっかりと聞き留め、次の瞬間、その背中に弾かれたように抱きついた。


「っ、七瀬」


わずかな困惑が滲む声で私を呼び、奏介が肩越しに振り返る。
私は彼のお腹にしっかりと両手を回して、ぎゅうっと抱きしめた。


「うん、奏介。……もっと、いちゃいちゃしよう」


奏介の背中に頬を擦りつけながら、心に直接語りかけるようにそう告げる。
彼が大きく息をのむ気配が伝わってきた。
奏介の希望を叶えるつもりで言ったのに、反応は返ってこない。


わずかな沈黙の後、奏介が溜め息をついた。
そっと顔を上げると、奏介は頭痛をやり過ごすように、大きな手を自分の額に当てていた。


「いや……すまない。七瀬。今のは頭が疲れ果ててついグラッと煩悩に傾いただけで、完全なる失言だ。申し訳ない。忘れてくれ」
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