外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
そう言って腕を解くと、お抹茶が入っている二つの棗を、左右両方の手で持ち上げた。
私は手に持った茶器を畳に戻し、彼の手に目を凝らす。
藤悟さんは、種明かしとでも言うように、まず右手の方を軽く揺らした。


「こっちには二杯目を点てた抹茶が入っている。初心者にも抵抗なく味わえるよう、うちの教室でも初級コースまでで使う一般的なもの。で、こっちが一杯目」


右手の棗を畳に置き、左手に持った物を顔の高さに掲げて、小首を傾げる。


「多分、ウチで使う中で一番苦い抹茶。点て方が下手だと、俺や親父やお袋……もちろん奏介でも、とても『美味しい』とは思えない代物だね」

「わ、わざと……!?」


奏介に似た綺麗な目を意地悪に細める藤悟さんに、私は思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。


「『無』になれるほど、俺を男と意識しない可愛くない新弟子に、ちょっとしたお灸だよ」

「なっ……!!」


さすがに私も憤慨して、思わず腰を浮かしたものの――。


「っ、きゃっ!」


お稽古始めから、正座していたのはまだせいぜい十五分といったところ。
だというのに、私の足はすでに痺れて感覚が鈍く、一歩踏み出したもののそこに力が入らない。
結局、私は藤悟さんの前で、無様にもドスンと転んでしまったのだった。
< 95 / 226 >

この作品をシェア

pagetop