外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
ほんの数歩分の距離に立っていた彼の腕を取る。


「どうして!? 帰りは夜って言ってたのに!」


驚きの後は、すぐに嬉しさが込み上げてくる。
弾んだ声をあげた私を、奏介はわずかに顎を引いて見下ろした。


「予定より早く片付いたんだ。この時間は稽古だって聞いてたし、入れ違いにもならないだろうと考えて、迎えに来た」


彼は私に微笑みかけてから、藤悟さんにちらりと横目を向けた。
それにつられて、私も藤悟さんを振り返る。
彼はお茶室の襖を脇に立ち止まったまま、胸の前で腕組みをして、私と奏介を見遣っていた。


「兄貴。七瀬が世話になった。……ありがとう」


奏介が静かに口にした謝意に、藤悟さんはニッと目を細めて小首を傾げる。


「どういたしまして。周防家のためになると思うだけで、お前のためじゃないから気にするな」


藤悟さんの返事に、奏介がわずかに眉尻を上げる。
けれど、それ以上はなにも言わず、彼は私の腕を引いてくるりと方向転換した。


「帰ろう、七瀬」

「あ、はい。あの、藤悟さん。ありがとうございました」


私は奏介に腕を取られたまま、一度足を止め、深く頭を下げた。


「また来週。七瀬さん」


背中から藤悟さんの声が追ってくる。
廊下の角を折れる前にもう一度振り返って見ると、それに気付いた藤悟さんが、ニッコリ笑ってヒラヒラと手を振っていた。
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