お見合い相手は俺様専務!?(仮)新婚生活はじめます
ああ……あの日の自分を大馬鹿者と叱ってやりたい。

今、後悔しても、遅いけれど……。


青ざめる私の背中には、冷や汗が伝う。

よりにもよってなぜ勤め先の専務と見合いをさせるのかという、非難の思いが込み上げたが、それは両親のせいではなかった。

このファンベル製菓に勤めていることを、私は両親に秘密にしているのだから。


東京の名のある大学を出た私は、静岡の実家に戻って家業を手伝えという親の希望を受け入れず、こっちでの就職を選んだ。

織部茶問屋に未来は見えないし、私に給料を払えばさらに財政は逼迫する。

私のせいで古くからの従業員を解雇するという話になりそうで、それが嫌だった。

自由気ままなひとり暮らしを手放したくなかったという思いもあるし、ファンベル製菓にどうしても勤めたい理由もある。


勤め先を両親に隠した理由は、『莉子が他で就職を決めたというなら、最高級の茶葉を持って上役に挨拶しにいかねばならん』と父が言ったせいだ。

それは単なる挨拶ではなく、由緒正しき織部家の娘だから、粗末に扱わないでくれというプレッシャーだろう。

< 28 / 255 >

この作品をシェア

pagetop