蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
くすぐったく感じてしまったのは彼の指先のせいなのか、それとも意地悪く聞こえる低い声のせいなのか……分からない。
中條さんから目を逸らすことが出来ないまま、鼓動だけが加速していく。
「間違ってますか?」
問いかけながらも、彼は自分の意見が正しいことを分かっている。
すぐそこにある形の良い唇が微かに笑みを浮かべたことで私はハッと我に還り、中條さんの手を力いっぱい押しやった。
「とっ、とにかく! 私のことは放っておいてって、お父さんに伝えておいてください!」
「そうですか分かりました。一応、そのように伝えておきますね」
中條さんは姿勢を正すと、優雅にお辞儀をしてみせた。
社内へ戻っていく姿勢の良い後ろ姿を見つめながら、私は両手で自分の頬に触れる。
ひどく熱くなっていることを今更ながら認識してしまえば、妙に悔しくなってしまう。
「なかじょうけいいちろう~~!」
彼との年の差は十歳ほどだというのに、彼は父よりも私のことを子ども扱いしている。
そう思えて仕方がなかった。
+ + +
「良かった! やっぱりここにあった!」
ロッカーの中にぽつんと置き去りにしてしまった財布を掴み上げ、私は大きく息を吐いた。