蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
「副社長になにかおねだりするおつもりですか?」
ガラスに張り付くような形で兄をじっと見つめていたら、突然、耳元で誰かが囁きかけてきた。
誰……そんなこと声ですぐにわかる。
「いきなりなにするんですか、中條さん!」
私は右耳を手でおさえながら、大きく横に飛び退いた。
中條さんは姿勢を元に戻すと、顎に手を当て、怪しむように目を細める。
「今にでも涎を垂らしそうな顔で副社長を見つめていらっしゃったので、てっきりお腹が空いているのかと。違いましたか?」
「違います! お腹は……ちょっとだけ空いてますけど……そんなこと思ってません!」
「そうですか。大変失礼いたしました」
「……本当にそう思ってますか?」
それは心からの謝罪なのかどうなのか問いかけると、中條さんは私と数秒間見つめ合ったあと、すっと視線を逸らした。
「どちらにせよ今日は無理ですよ。進捗状況が芳しくありませんので、副社長はまだお帰りにならないでしょう」
私は口元を引きつらせながら、持っていたバッグを両手で持ち上げてみせた。