蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
ここは電話しますとははっきり言わず、曖昧な言葉で流してしまおうと心に決めた時、ゴホンッと水岡先輩の背後から大きな咳払いが発せられた。
恐る恐る視線を向ければ、水岡先輩の後ろに中條さんが立っていた。
「久津間さん、お客様をミーティングスペースにご案内してください」
ほんの少しの厳しさを含ませた声で、中條さんが久津間さんへと指示を送る。
久津間さんはすぐに受付カウンターから出て、「こちらへどうぞ」と水岡先輩を促した。
水岡先輩は僅かに顔色を悪くさせながらも、素直に久津間さんのあとに従い歩き出す。
社内に入りすぐの所に来客用のスペースが設けられているため、それほど間を置くことなく二つの靴音は聞こえなくなり、心の中で焦りと怯えがじわじわと広がっていく。
やっぱり私、怒られるのだろうか。
中條さんはいつも通り、無表情である。
けれど逃げ腰の私には、その無表情が怒りを表しているようにも見えてしまい、恐ろしくてしかたがない。
秘書の女性に助けを求めようと思ったけれど、その姿はすでにこの場から消えてしまっていた。
一対一のこの状況に、項垂れてしまう。
「まったく。あなたという方は本当に……」