SKETCH BOOK
しばらくの沈黙が走って、
ため息をつく。
こんなに黙るってことは、
あたしのことはもう、
好きじゃないのかもしれない。
諦めて、書斎を出ようとした時、
お父さんが声をあげた。
「…好きだよ」
ポツリと、この狭い箱の中に
言葉を落とした。
ぱっと振り返ると、
お父さんは背を向けていた。
「そ、それならだって、
どうして離婚なんかするの?」
扉に手をかけていた手を離して
お父さんの背中を見た。
大きな背中。
この背中を見て生きてきたのに。
それが今日で終わってしまうなんて……。
あたしが詰め寄ると、
お父さんはそれでも背を向けていった。
「大人には……大人の事情があるってもんだ」
「な、にそれ……」
何?
何よそれ。
大人の事情?
そんなもので子どもは片親を失うの?
こんなことで、あんな紙きれ一枚で、
あたしの人生は変わってしまうの?
なんて自分勝手な。
子どもの気持ちなんて、
きっと二人には分からないのね。
「もう、行きなさい。
お母さんが待っているだろう」
「…………お父さんなんか」
大きな背中が、じわりと歪んだ。
もうほとんど見えていない。
それでもあたしは
唇を震わせながら言った。
「お父さんなんか大嫌い!」