SKETCH BOOK
「もっと寄って。それじゃあ写んねぇ」
「えっ」
「ほら」
頬がくっついてしまうんじゃないかってくらい、
思い切り近づく。
ドクン、ドクンと
胸の鼓動が聞こえてくる。
これじゃあ心臓、持たないよ。
「撮るぞ」
「うん」
パシャリと音がした。
その瞬間くっついていた橙輝が離れてしまい、
今までの熱が嘘のように引いていく。
するとすぐにピロンとケータイが鳴った。
橙輝から写真が送られてきていて、
その写真を見るとまるで
カップルのように二人が写っていた。
ケータイを握りしめていると、
橙輝はあたしにヘルメットを手渡した。
「帰るぞ」
「はーい」
ルンルン気分でヘルメットを受け取って被ると、
バイクに跨った。
今日はとってもいい日になったなぁ。
こんなに一日が短く感じる事ってないと思う。
もう日は沈んでいて、
涼しくなってきた。
バイクはゆっくりと進み、
だんだんスピードを増していく。
ケータイを握りしめて
橙輝のお腹に腕を回してくっついていると、
すごく幸せな気分になった。
「ありがとう。橙輝」
「どういたしまして」
聞こえないと思って喋ったのに、
今度は聞こえていたみたい。
恥ずかしくなって背中に顔をくっつけると、
今度は橙輝の声が聞こえてきた。
「……だよ」
「えっ?何ー?」
何かを言ったような気がしたけれど、
何を言ったのかは分からなかった。
この時のあたしはそんなことはどうでもよくて、
それ以上聞こうとはしなかった。
ただ、幸せだったの。
この後訪れる現実に目を背けていることも知らずに。