SKETCH BOOK



バイクから降りて中に入ると、
独特の匂いがした。


中にあるもの全てが新鮮で、
あたしはずっとぼうっと周りを眺めていた。


橙輝はどんどん奥に進んでいって、
スケッチブックを手に取っていた。


やっぱり、新しいのを買いに来たんだ。


「それ、買うの?」


「ああ」


他にも画材道具を選ぶ橙輝の目は
とても真剣で、ちょっと楽しそうに見えた。


こんな感じなんだ。


橙輝が絵のことになると
とても真剣になることは分かっていたけれど、


こんな風に集中していくんだね。


なんだか新鮮。


新しい橙輝の一面を見た気がした。


あたしは邪魔しないように、
横からそんな橙輝を眺めた。








どれくらいいたのかな?
買うものが一通り決まった橙輝は
あたしを見て手招きをした。


「買ってくるから、先に戻ってて」


「うん。大丈夫?一人で」


「大丈夫」


「そっか。じゃあ戻ってるね」


「ああ」


橙輝よりも先に外に出て
バイクに寄りかかる。


外は何だか雨が降りそうな、
そんな雲行きで、


ふと喧嘩した日のことを思い出した。


確かあたしが麻美さんに嫉妬して……。


「嫉妬、かぁ……」


「嫉妬がどうしたって?」


「へっ?あ、いや、なんでもない!」


いつの間にか橙輝が目の前にいて、
慌てて首を横に振る。


聞かれていたなんて思わなかったから
びっくりした。


橙輝は不思議そうにあたしを見つめたけれど、
それ以上何も聞かなかった。


あたし、今でもやっぱり橙輝が好きだ。


胸の奥がチクリと痛い。


麻美さんのことを思い出すだけで
嫉妬心が増してくる。


本当に、この気持ちはいつなくなるんだろう。


いい加減ただのお兄ちゃんとして接したい。


それなのに出来ないもどかしさが胸を貫く。


ただただ苦しかった。


この気持ちを一瞬で消してしまえたら楽なのになぁ。



なんて、そんなこと出来たら
苦労なんてしないんだけどさ。




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