SKETCH BOOK
お父さんの声がして、あたしは
ゆっくりと書斎へ入った。
お父さんは机に向かって
何かを書いている最中だった。
スーツも脱がずに、
ただひたすら机に向かっている。
「お父さん、離婚するの?」
「……梓は、お母さんに
ついていくといい。
お父さんは一人でも大丈夫だからな」
「なんで離婚するの?」
あたしが聞くと、お父さんは
あたしと向き直った。
お父さんと目が合う。
お父さんはため息をついて口を開いた。
「覚えておきなさい。
梓が結婚する時は、よく相手を選びなさい。
結婚したものの何かの諍いに離婚するなんて、
ザラにある話だ。
父さんや母さんのようにならないよう、
梓は良い人を見つけなさい」
お父さんはそれ以上、口にしなかった。
書斎を出て自分の部屋へ入る。
段ボール箱に必要なものを詰めていく。
荷物を整理していると、お父さんと
お母さんと三人で撮った写真が飾られた
コルクボードを手に取った。
みんな笑い合っている、この頃の家族は
どこにいってしまったんだろう。
もう修復のきかない今のこの状況に
胸が苦しくなる。
きゅっと写真を抱きしめて、
あたしはため息をついた。