ツンデレ黒王子のわんこ姫
「健琉くん、今回は助かった。まさか芽衣に資産運用の才能があるとは知らなかったよ」

白木家に戻る途中のハイヤーの中で、剣士は感慨深気に言った。

「大分逃亡中に、芽衣さんがそんなことをしているとは僕も知らなかったんですよ」

実際、芽衣は着のみ着のまま出掛けたはずだった。

しかし、今はどの旅館やホテルでもパソコンの貸し出しをやっている。

旅館の女将と支配人が、芽衣は部屋に籠りきりだったと言っていたが、寝ている時間が多かったとはいえ、覚醒の合間に資産を増やしていたとは。

家出の理由を問い詰めた際に、芽衣から資産運用についての報告を受けた健琉は、友人の運営するIT企業とコラボした美術館イベントを思い付いた。

刀剣や歴女ブームは最早、大きな収入源と成りうる。

クロカンの育児用品も設立当初からの製品を美術館に飾って活路を見いだす予定だ。

託児所を併設して、美術館や販売スペースを親世代が安心してまわれる環境を整える。

そのためには、白木美術館を我が物にしようと画策していた資金援助者の存在は、かえって邪魔になるだけだった。

今回の許嫁騒動は、芽衣を傷つけることにはなったが、一つの区切りにはなった。

「芽衣さんはわが社にとっても大事な戦力でしたが、幼稚園の先生になりたいという夢の一部を叶えるには白木美術館を活用する方が得策です。いずれにしろ結婚したらクロカンは辞めてもらう予定でしたから、芽衣さんが白木美術館の館長になっても問題はなかった」

「健琉さん、本当にありがとう。これで健琉さんのお嫁さんになれる?」

見つめ合う二人を咎めるように剣士が、コホン、と咳払いをする。

「芽衣を傷物にしたんだ。世が世なら切腹ものだが、何分今は平成だ。責任は取ってもらわないとな」

「ありがとうございます。お父様」

涙を浮かべる芽衣の頭を、優しく健琉が撫でた。

「俺のワンコは守られるだけではない強さを持った大和撫子だったな」

明日はいよいよ結婚式。

紆余曲折あった二人だが、゛雨降って地固まる゛

ツンデレ黒王子のワンコ姫が巻き起こした初めて撹乱は、飼い主の機転で無事終息したのだった。

Fin

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