男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
「入れ」
 

アベルが温かいお茶を持って入って来た。

ミシェルの好きな焼き菓子もある。夕食を食べたあとだが、ミシェルは喜ぶ。


「そういえば、クロードさま。なぜ伯爵の子息のふりをして町に行かれていたのですか?」
 

ミシェルは焼き菓子を一口頬張り、お茶を飲んでから口を開く。前から疑問だったのだ。


「国王として町へ出ても、本当の生活が見えてこないだろう? 伯爵の子息であればある程度尊敬されるが、町人から話も聞ける。旅人も多く、色々な話が飛び交い、私はマーサの店が好きだった。女店主も気さくで楽しい人だ。お前は親しげだったな」

「はい。マーサは母の友人なんです。私を幼い頃から知っている人です。滅多にありませんでしたが、町に泊る時はマーサの宿に」


その頃の時が懐かしく感じられる。


「それで納得だ。マーサはお前の母親のようだった」

「あ! まだ荷物が置きっぱなしでした。近いうちに行ってもいいですか?」

「荷物?」
 

クロードは首を傾けてミシェルを見る。


「はい。かつらと女の子の服です」

「茶色の髪をした女の子が懐かしいな」
 

ミシェルは軽々とクロードの膝の上に横抱きに乗せられた。


「ク、クロードさまっ!」
 

クロードは膝の上であたふたしているミシェルの鼻にちょんとキスをする。




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