ダドリー夫妻の朝と夜
 アーサーに見られている。

 そう認識してしまうと、たまらなく恥ずかしいのに、体の奥深くが高揚していくのを感じた。

 アーサーが、エミリアの長い髪を一房取り上げ、口づける。

「あ……」

 それだけで、エミリアのぷっくりした唇からわずかな声が漏れた。

 アーサーの硬い親指が、褒めるようにその唇を撫でた。

「……あ、の……」

「なんだ」

 アーサーがクラヴァットを引き抜く。シャツのボタンを外していく。

「誰か呼びましょうか。その、着替えをなさるのでしたら」

 アーサーの口角が、わずかに動いた。

 笑われたのだ。

 エミリアは、アーサーがいつも誰を着替えに使うのか、知らない。従僕なのか、仕事の話をしながら自室までついてくるであろう家令にさせているのか、何一つ知らないのだ。

「ごめんなさい、いつも誰をお呼びになるの?」

「君に手伝わせたら、気分を害するだろうか」

「いいえ」

「では、カフスを」

 エミリアは起き上がると、差し出された手元を両手で弄った。

「誓って、君に使用人の真似事をさせたいわけじゃないと、わかっているのかな」

「ええ」

「夫婦の時間を、二人きりで過ごしたいと言っているのだよ」

 アーサーは、エミリアの外したカフスを手のひらで受け取ると、かすめるようなキスをし、それから少し長く唇を押しつけた。

 エミリアにもわかるようになった。これは、アーサーの約束の印だ。誓いを立ててくれているのだ。
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