ドクター時任は恋愛中毒
「千緒(ちお)、ただいまー」
リビングに入っていく水越の背後からおそるおそる部屋の中を覗く。
しかし、想像していた幼児の姿はどこにもなく、代わりに目に入ったのは窓際のベビーベッド。木製の柔らかな風合いに、なんとなく心が和む。
ふたりでベッドの方へ近づき柵の上から中を覗くと、安心しきって眠る、色の白い女の赤ちゃんがいた。
「……姪というのは、まだ乳児なのか」
「ええ。三か月になったところです」
「母親は、さきほどの……? 何やら慌てて出掛けて行ったが」
「そうです。妹の子ども。妹は私が帰ってくるのと交代で、夜働いてるから」
……なるほどな。だからそれらしい服装と化粧だったわけか。
しかし、彼女たちの生活はどう考えても一般的な子育てとはちがう。俺は単刀直入に、今の時点で足りない登場人物について尋ねてみる。
「父親の気配がないようだが?」
「……いなくなっちゃったんです。妹はいわゆる出来ちゃった結婚だったんですけど、夫はいざ千緒が生まれたら、大して手伝いもしないくせに自分のやりたいことが全然できないってキレて、出て行ってそれっきりらしくて」
「なんだそれは……」