漢江のほとりで待ってる
一人取り残された慶太の元に、椎名から連絡が入る。
「坊ちゃん!クリストファーが……」
電話口の椎名の話に、慶太は顔色が変わった。慌てて本社に戻った。
そこにはクリストファーが尋ねて来ていた。
心中穏やかでない慶太は、
「一体どういうことなんだ!クリストファー!」
すると、
「全てを、白日の下に晒す」
何かを悟ったような穏やかな顔でクリストファーは答えた。
「そんなことをしたら、君ももう絵描きどころか、全てを失ってしまうんだぞ!」
「それは覚悟の上だ!自分の描きたい絵も描けないなんて、そんなもの絵描きでも何でもない!自分を偽ってまで描き続けることがどれほど苦痛か……好きな絵が描けないなんて、何の意味もない。私は、もう一度、あの日のように描きたかっただけなんだ」
「そんなもの、今でもできるだろう!現に君は時の人となった!好きな時に好きなように描けばいい!君はあの頃の栄光を取り戻したんだよ!」
「ふっ。はぁ~、彼に言われたよ。今胸を張って堂々と生きてますか?自信を持ってアーティストだとあなたは言えますか?って。私は神も裏切った。だから自分の罪は自分で償わないと。私は全てを失うわけじゃない、取り戻すために全てを明らかにするんだ」
「そんな勝手な真似は許さない!名声をくれてやるために、機会を与えてやったのに!出なきゃ落ちぶれた君なんかを選んだりはしなかった!」
「何だと!!」
「ふっ!弱みを握られたまま思い通りに動かせる、駒でいればよかったのに!!」
「なるほど!だから僕を選んだわけか。生憎だったな!僕はそこまで人間的にも落ちぶれてはいない!」
「負け惜しみか!例の物はどこにあるんだ!!」
「さぁね?僕の手元にないのは事実だ!」
「ならどこだ!」
「もう、誰かの手元に渡っているころだ」
「それは誰だ!!答えろクリストファー!」
「無駄だと思うよ?もう諦めなよ!きみの弟は、陥れた僕を救いに来た。そんな彼をもうこれ以上裏切りたくないんだ。それに、例えコピーを奪ったとしても、オリジナルが存在する限り、無駄ってことだ。彼はそんなバカじゃない!」
「いいから答えるんだ!」
「慶太、なぜ君には分からないんだ?弟が本当に望んでいること」
「そんなこと私の知ったことではない!早く答えろ!」
クリストファーは、呆れながら一条の名前を出した
それを聞いて慌てて部下に、
「とにかく、由弦のパソコンを押さえろ!!無理なら二人共どんな手を使ってもいいから捕まえて来い!」
と指示した。
「Mr.高柳、あなたは愚か人だ。そして可哀想な人だ……」
彼には、淋しさから始まった憎しみを、誰も止めてくれる人がいないのだと、クリストファーは憐れんだ。
「っ……!!」
「坊ちゃん、大丈夫です。私に全てお任せください」
椎名は証拠を押さえるため、急いで部屋を出て行った。