漢江のほとりで待ってる


手術室前の椎名は、フラつきながら立ち上がり、

「警察に行きます」

そう言って、おぼつかない足取りで、みんなに一礼をしてその場を去った。

弦一郎は、気持ちの整理がつかず、背中を向けたまま何も答えなかった。

珉珠は椎名の言葉も耳に入らず、由弦の運ばれたICUへ行き、窓の外側から眠っている由弦を見守った。

一条も珉珠に付き添いながら、椎名のことも気になっていた。

「青木さん、少しの間ここを離れます。ちゃんと戻って来ますから」

珉珠には何も聞こえていない様子。

そう言うと一条は椎名を追い掛けた。

病院の外へ出ると、椎名がタクシーに乗り込もうとしていた。

「椎名さん!!」

一条は叫び、走り寄った。

その声に気付き、振り返った。

そして一条に、

「由弦坊ちゃんを宜しくお願いします」

頭を下げて、車に乗り込んで行ってしまった。

溜息をついた一条。どうにもやり切れない気持ちが残った。

珉珠の所に戻ると、弦一郎も来ていた。




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