漢江のほとりで待ってる


珉珠は慌ててその手紙を開けた。

――――

改めて自分の気持ちを文字にするのは、変な感じなんだけど、

ちょっと筆に気持ちを込めてみた。

ほとんど捨てた人生なんだ。

母さんが死んでから、ずっと一人で生きて来た。

どこへ行っても邪魔もの扱いされて、必要とされない存在。

生まれて来てはいけなかったと、自分でもそう思ってた。

だけど、あなたに出会ってから変わったんだ。

生きたい!って心の底から思った。

あなたとの初めての出会いは衝撃的だった。

あなたの瞳に、吸い込まれるように惹かれていった。

一見、冷たく思われがちな目から、オレの方を向いて、あなたが笑った瞬間、目が垂れ下がり、とても可愛い笑顔を見せた。

たまらなく虜になった。

兄貴と本社から来るときしか、会えないから、でも来た時には、必ずオレを見つけて笑い返してくれた。

その笑顔見たさに、あなたに逢いに行く口実を毎日探した。

あなたは最初、オレに何の興味も持ってくれなかったけど、オレの押しの根負けで!?つき合ってくれたのかな?

毎日夢中だったよ。

初めて手を握った時なんか、心臓が破裂しそうなくらいテンション上がった。

オレがそんな思いをしてたなんて、あなたは知らないだろ?

オレの頬に触れた手や唇、離れたらすぐに忘れてしまいそうなくらい、あなたが恋しくて、片時も離れたくない思いが溢れた。

幸せ過ぎて怖いくらいな毎日だったんだ。

あなたが目の前から消えてしまうんじゃないかって。

でも、やっぱり幸せな時は束の間と言うけど、ホントだね?

やっとあなたを手に入れたと思ったのに。

あなたを好きになって欲を出したから、罰が当たったのかな。

もしも、オレが消えないと、あなたが幸せになれないのなら、オレは喜んで消える!

もしもオレの命と引き換えに、あなたが助かるのなら、オレは喜んでこの命を差し出す!

あなたがいない世界で、嘆き悲しみ苦しみながら生きるより、オレが死んであなたが幸せで生きる方がいい!

その願いを叶えてくれるのなら、対価としてオレはこの命を差し出す!

だから、悪い方向に考えたくはないけど、オレにもしものことがあっても、あなたは誰も恨むことはしないで。

珉珠、大好きだよ。

そして、愛してくれてありがとう。

「離さない」って言った約束、来世に繋げていいかな?

今世紀はダメみたいだから、来世紀に紡ぎたい。

例えどんな境遇に置かれても、オレ達は必ず巡り合える!

あなたの笑顔が好きだった。

オレの名前を呼ぶあなたの声が好きだった。

あなたの瞳が好きだった。

歩く姿も、優しい手も。

珉珠!離れてる時間が苦しい!あなたに逢いたい!

珉珠、離れたら今までの記憶を失くいてしまいそうだよ!

珉珠、珉珠、

オレと出会ってくれてありがとう。

これを自分の口で言いたかった!

だから来世の全ての神に誓うよ!そして来世のあなたに。

今度は必ず自分の口で言うって!


あなたに永遠の愛を誓う!


そして、生きているあなたは、幸せになれ!

あなたの幸せ心から祈っている。

きっと、またな!


由弦

――――

そして、二枚目には、

――――

父さん、オレを忘れずにいてくれてありがとう。

三人で暮らした束の間の時間、忘れないよ。

愛をくれてありがとう。

そして、その愛を、兄貴にもあげてほしい。

義母様と椎名おじさんにも。

オレの尊敬する偉大な父親だから、それを可能に出来ると信じてる。

全て知っていたなら尚更、大きな愛で全てを包んでほしい。

オレは幸せだったよ。

だからもう、父さんは罪を感じることなく生きてほしい。

――――

走り書きされ、文字の躊躇った跡や、思いを詰まらせながら書いたことが読み取れた。

珉珠は手紙を握りしめて泣いた。

「一人残された私はどうなるの?あなたに命をもらっても、あなたがいない世界なんて何の意味もない!思いは同じなのに……だったら、手紙じゃなくほんとにあなたの口で言って!来世だなんて言わないで、お願いだから!あの時みたいに、「好きだよ珉珠!」って!由弦お願いだから目を開けて!」



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