漢江のほとりで待ってる
正式に、大手菓子メーカーから、総合プロデュースを任された由弦。
これから忙しくなりそうだった。
高柳由弦として、最後の仕事を全うしようと気を引き締めた。
その作業の間、またあのマーケティング部に身を置くことになった。
「皆さん、その節は、ありがとうございました。そして宜しくお願い致します。」
由弦は、マーケティング部のみんなに、お見舞いに来てくれたお礼と挨拶をして、深々と頭を下げた。
前と雰囲気の異なる由弦に、みんなは驚きながらも、以前と変わらず、由弦を迎えてくれた。
本社の社長室では、
「本来なら、君を由弦の秘書に戻ってもらうつもりだったが、こんな状態だ、戻したら余計混乱を招くだろう。堪えてくれ青木君」
「はい、状況は分かっているつもりです」
「君たちが愛し合っているにもかかわらず、無力な父で許してくれたまえ」
「いつから社長は知っていらしのですか?」
「これでも由弦の父親だからな。由弦の誕生日に君が我が家に来た時だよ」
「そうでしたか」
「慶太のことは、責任をもって私が何とかする。今由弦はあんな風だが、必ずや元に戻ると信じている。だから宜しく頼む、青木君」
「……」俯いたままの珉珠。
「マーケティング部には、小まめに足を運ぶようにしよう。その時は必ず青木君も一緒に来なさい。君と顔を合わすことで、何か思い出すかもしれないし。」
社長の計らいだった。
「かしこまりました」
社長にそう言われたものの、自分も由弦を傷付けている、由弦の記憶が戻れば、全て元に戻るだなんて、そんな簡単なものではないと、珉珠は思っていた。
今よりももっと、由弦が遠ざかって行くような気がした。