漢江のほとりで待ってる

ある日、就活で走り回っている慶太の姿を、偶然街で美桜は見掛けた。

彼女も同じ立場で、仕事探しに奔走していた。

肩を落として、ハローワークから慶太が出て来た。

路上で、途方に暮れる慶太に声を掛けた美桜。

「お久しぶりです」

「あ!?君は~確か由弦の」

「神崎美桜です。その節はお世話になりました。ほんとに申し訳ありませんでした」

「何のことかな?」

「青木さんの……」

「あぁ~もう気にするな。互いにメリットがあったからだ」

「はい」

「ところで、しゅうかつとはどういう意味だ?」

そんな他愛のない会話から始まった。

そして慶太は美桜から、履歴書の書き方、面接の受け方、企業が好む志望の動機の答え方など、教わって行った。

「時折何のためにやっているのか分からなくなる。高が意地の張り合いから始まった。一人で何とかやって行けると思っていたが、それが殊の外難しい。なぜか物凄く辛い試練の壁にぶち当たっているようだ」

慶太は弱音を吐いた。

「庶民はみんなそんな思いをしながら就活をしています。ううん?高柳さんの試練はほんの序の口。何十社、何百社と不採用通知を受けても、それでもみんは続けます。就職難と言われ、みんなしのぎを削って頑張っています。泣いてる暇なんてないんです。だから、生まれながらに決められた道で、望んだ道ではなくても、働く場所があるだけマシなんです。それに意地の張り合いと言いながらも、高柳さんには帰る場所があるじゃないですか。一人暮らししてたらそんな悠長なこと言ってられない。ほんとに一からやるなら家だって出る覚悟でやらないと。高柳さんは甘えてる……」

美桜の言葉に、ショックを受けたと同時に、慶太は自分が恵まれた環境であることに、初めて気付かされた。

当たり前だと思っていた環境の中で生きることが、幸せだったなんて。

就活を通して少しだけ、庶民の気持ちが分かった慶太だった。

それと、しゅうかつ(就活)という呪文が何を意味するかだけは分かった。

それだけでも、今の慶太にとっては大きな収穫であり進歩だった。

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